衣裳辞典

衣装箱が最も収納してきたもの、それが舞台衣装です。

舞台ならではのことから、家庭の衣服に通じることまで、衣装にまつわる言葉をいくつか解説いたします。

  • 衣桁
    いこう
    着物をかけるための、鳥居のような形をしたものです。 着物の柄を見る時や、着る前などに着物をかけておきます。
     
  • 衣装箱
    いしょうばこ
    演劇などの場合に衣装を入れておく箱です。丈夫なことはもちろんですが、移動が多い大衆演劇では軽さも重要です。大衆演劇の世界では茶箱とも呼ばれます。アトムの衣装箱についてはこちらをご覧下さい。
     
  • 刺青/入れ墨
    いれずみ
    大衆演劇においては、刺青が入った人の役が演じられる際、墨肉(すにく)と呼ばれる肉襦袢(にくじゅばん)や肌襦袢(はだじゅばん)を着て演じられます。非常に精巧にできているものもありますので、驚いてしまうかも知れません。
     
  • 花魁
    おいらん
    吉原遊郭の中でも遊女位の高い遊女です。大きなべっこうのかんざしをし、豪華な着物を着た花魁が高下駄をはいて歩く「花魁道中」は大衆演劇によるショーでも定番です。 しかしそれだけに特別な用意が必要で、かつらやかんざしをしまうにも専用の箱が必要となります。 着付けが終わっても、全体像を見るためには大きな鏡が必要になります。
     
  • おき
    紋様の形に切り取った布を服に縫い付けて模様を表す方法です。金箔や銀箔も縫い付けられますので、ゴージャスな衣装作りに向いています。
     
  • おび
    着物を着る時に腹回りで締める、平たい織物でできたものです。西洋のベルトと違って、現在では衣服を締める機能はほとんどなく、装飾専門の物となっています。 女性用は太く、後が膨らんだ結び方をする袋帯、男性は比較的幅が短い角帯を締めることが多いです。早替え用の衣裳では、簡単に装着できるワンタッチ帯などが使われることもあります。
    帯まわりの名称

    帯の種類

    丸帯
    二尺(約68cm)の布地を半分に折り、中に帆布のしんを入れたものです。芸者・舞妓・日本舞踊用、もしくは礼装用に用いる物で、格式が高い物とされています。
    袋帯
    一枚の布を袋状に縫い合わせた帯で、裏側に模様が入っていないので、丸帯より使いやすい物です。非常に広く用いられています。
    兵児帯
    「へこおび」と読み、本来は男性用の帯です。ちりめん地を使った柔らかい帯で、最近は女性用にも使われています。蝶々結びなど派手な結び方ができる利点もあり、浴衣やショー用の着物の帯にも使われています。
    角帯
    幅15cmほどの帯で、男性用のものです。

    帯関連の言葉

    帯枕
    帯の下に入れて、ボリュームをアップさせるクッションです。
    帯揚げ
    帯枕を包むためのもので、帯の上から少しのぞかせるタイプが多いです。元々は芸者の間で使われており、帯揚げを用いることが一般に広まったのは、明治時代頃から始まったと言われています。
    帯締め
    帯の上で止める、平たいひもです。
    帯留
    帯締めに通して帯の上に出すアクセサリーです。
    腰紐
    長着を合わせて着てから、腰の部分で結んで固定するためのひもです。
    コーリンベルト
    着物ベルトとも呼ばれる、着付けに用いる道具です。長着の前身頃をクリップではさみ、襟元が崩れないように固定します。もちろん比較的近年にできた道具ですが、非常に便利なので広く使われています。
    伊達締め
    マジックテープがついた帯状の物で、帯を締める前に巻いておく物です。着付けが崩れないように固定するための物です。これが発明されるまでは腰紐が使われていましたが、便利なので広く使われています。
    帯板
    帯の形を整え、前が張っているように見せる板です。伊達締めと一体になった物もあります。
    おはしょり
    女性が着物を着る時、身丈に余った布地を腰付近でまとめて、帯の下から折り返し部分を少し見せるものです。男性が女性を演じる女形では無いこともあります。
     
  • 帯の結び目
    おびのむすびめ
    女性の帯は、後側の結び目も大切なポイントです。ここではその一例をご紹介します。それぞれの結び方はさらにアレンジを加えることによって、独特な見た目になります。
    太鼓結び太鼓結び
    文庫結び文庫結び
    角出し結び角出し結び
    のし結びのし結び
    貝の口結び貝の口結び
    一文字結び一文字結び
    ふくら雀ふくら雀
    蝶々結び蝶々結び
  • 織物
    おりもの
    二本以上の糸を縦横に組み合わせて作る布地で、ほとんどの衣装が織物からできています。織り方の基本は、平織り(縦糸と横糸を一本ずつ互い違いに織る)、綾織り(縦糸が横糸の上を二本、下を一本通るのをくりかえす織り方、ツイル)、繻子織(糸が交差する部分が極端に少ない織り方。サテンなど)の通称・三原組織と呼ばれる三つの方法です。

    主な織物の種類

    「つむぎ」と呼ばれる絹織物で、あまり品質が良くない繭から作った糸でできています。糸の太さも均一ではないので、硬い布地になりがちですが、キルにしたがって独特の風合いが生まれます。耐久力が高い布地として知られています。
    有名な紬
    • 米沢紬
    • 結城紬
    • 遠州木綿
    • 大島紬
    • 琉球紬
    ちりめん
    「縮緬」と書く絹織物で、横糸にねじりをかけて織った物です。そのため布地には凹凸ができます。高級品として知られています。ちなみにフランス語ではクレープ織と言います。
    有名なちりめん
    • 丹後ちりめん
    • 浜ちりめん
    • 遠州木綿
    • 大島紬
    • 琉球紬
    ちぢみ
    「縮」と書く織物で、糸に強いよりをかけて織り、仕上げに熱湯をかけて縮ませたものです。独特のしぼができ、風通しが良いため夏の着物として使われます。
    有名なかすり
    • 小千谷縮
    • 明石縮
    • 京都縮
    かすり
    「絣」と書く織物で、あらかじめまだらに染め上げた糸を使って織る物です。かつては普段着としての着物によく使われましたが、近年では生産高が減少しています。
    有名なかすり
    • 伊予絣
    • 久留米絣
    • 備後絣
    ジャカード織
    フランスのジョセフ・マリー・ジャカードが発明した織機による織物です。パンチカードを用いることで、複雑な模様でも大量に織ることができるようになりました。比較的パンチカード作りが用意だったドビー織機も用いられています。現在はカードが電子データ化されています。
    ジャカード織が導入された織物
    • 西陣織
    • 博多織
    • 播州織
     
  • 女形/女方
    おんながた/おやま
    歌舞伎や大衆演劇において、男性の役者が女性を演じることです。そのため女形が存在する劇団では、男性サイズに合わせた女性用の衣装を用意しなければなりません。しかしそれを見にまとうと、そこには女性が現れるのですから驚きです。女形用の着物は、より女性らしい所作が映えるよう、職人の方が工夫を込められているからなのです。
     

  • かたな
    時代物に欠かせない小道具です。舞台での小道具では、主に木や竹で作った刀身に金属箔を貼った竹光や、アルミ製の軽量な物が使われます。大きさや形状から以下のような区別があります。
    脇差(わきざし)
    小刀ともいいます。刃の長さが40センチメートル以下なら小脇差、40から54.5センチメートル以内なら中脇差、それ以上を長脇差と言います。この刀は武士以外の庶民も持つことができたため、侠客は長脇差と称して打刀で武装していました。
    打刀(うちがたな)
    大刀ともいいます。室町時代以降、刀と言えばこれを指しました。刃の長さが2尺3寸3分(約70.6センチメートル)以下の物を指します。武士はこの打刀と脇差の二本を腰に差していたため二本差し(にほんざし)とも呼ばれます。
    短刀(たんとう)
    匕首(あいくち、合口とも表記)とも呼ばれる、ナイフ程度の短い携帯用の刀で、刃の長さが1尺(約30センチメートル)以下の物を指します。侠客が武装する時には「ドス」という名で呼ばれることもあり、他の刀を「長ドス」と呼ぶこともあります。また武士が切腹に使うのはこの短刀です。女中などの女性が持つ短刀は懐剣(かいけん)とも言います。
    太刀(たち)
    刃の長さが60センチメートル以上のものを指します。大衆演劇の舞台で太刀と言った場合にはだいたい打刀を指します。厳密には異なりますが、判別は非常に困難です。短い物は小太刀と呼ばれますが、脇差しとの違いは曖昧です。
  • かつら
    まげ物が多い大衆演劇では欠かせない小道具。大衆演劇、特にショーで使う物は時代考証も何のその、金や赤、その他様々なカラフルな、派手派手なかつらもたくさん存在しています。形も大きくなりますので、崩れないように大きな鬘箱(かつらばこ)に入れて持ち運びます。
     
  • 着流し
    きながし
    男性が着物を着る時に、帯だけで袴をはかないことをいいます。浪人や同心、町人などはこの姿ですが、町人でも礼装の場合は袴をつけることもあります。
     
  • 着物
    きもの
    衣装箱に入れることが多い、和服とも呼ばれる日本伝統の服装です。一般に、和服の中でも長着と呼ばれる裾まである前開きの服と、帯もしくは袴と組み合わせて着るものです。美しい文様とエレガントなシルエットが、女性や女形の魅力を引き出します。 大衆演劇の着物は伝統的な文様だけではなく、現代的、時にはSF的な文様が入ることもあるとても派手なものです。
     
  • 切りばめ
    きりばめ
    着物において切り継ぎや切り付けとも呼ばれる、別の模様の布地を縫い付ける方法です。洋服で言うパッチワークです。
     

  • 月代
    さかやき
    いわゆる「ちょんまげ」式の髪型で、頭のてっぺんをそり上げたものを指します。本来兜をかぶった際に頭が蒸れないようにという理由で始められたといわれています。頭を剃ることは正装なので、正装をする機会が無い浪人などは毛を伸ばしっぱなしにしているのです。また、かつらで月代の部分が青くなっているのは、毛が生えかけてきている様を表現しています。
     
  • 三度笠
    さんどがさ
    竹や菅(すげ)を編んで作った、てっぺんが平べったく大きく丸い笠を三度笠ということが多いのですが、本来の三度笠は三度飛脚(京都と江戸を月に三度行き来する飛脚)がかぶっていたもので、その頃はてっぺんが尖っていました。しかし江戸時代後期になるとだんだん深く大きくなり、現在連想されるような三度笠になりました。股旅物には欠かせません。
  • シケ
    しけ
    おくれ毛やほつれ毛のこと。色っぽさややつれを出すためにあえてつけられます。
  • 十手/実手
    じって/じゅって
    江戸時代の同心などが持っていた、手元が鉤状になった金属製の棒です。 同心は身分を証明するためにこの十手を見せることもあり、警察手帳と同じような役割を果たしました。 時代劇・大衆演劇などでは同心の手下である岡っ引きや目明かしも十手を持っていますが、本来は持つことを許されていなかったため、私物として持っていたようです。 多くの場合、「十手持ち」と言った場合には、岡っ引きや目明かしなどを指します。
  • 襦袢
    じゅばん
    和服における下着とも言える存在です。本来はいわゆる着物(長着)と同じ形をした、肌に密着する衣服を指します。舞台衣装の場合には、肌にぴったりとした肉襦袢に、刺青の模様が描かれた墨肉(すにく)が多く使われます。
  • 染色
    せんしょく
    ここでは衣類に色を付ける技法について説明します。
    藍染め
    江戸時代、最もポピュラーな染料で、英語でのインディゴ、つまりジーンズに使われる物の仲間です。現在では人工インディゴが開発されたために、天然藍によるものは多くありません。
    友禅
    「ゆうぜん」と読み、江戸時代に開発された染色方法です。布地に糊をぬり、余計な部分に色がしみ込まないようにして模様を描く方法で、京都の宮崎友禅斎によって開発されたと言われています。また琉球紅型(りゅうきゅうびんがた)もこれに近い加工方法です。
    有名な友禅
    • 京友禅
    • 加賀友禅
    絞り染め
    布地を絞ったり糸で結んだりすることによって、染料がしみ込まないようにしておき、模様を描く手法です。一般に素朴な物が多いですが、京鹿の子や後述する辻ヶ花のような複雑な模様の物もあります。
    有名な絞り染め
    • 京鹿の子
    • 豊後絞
    • 有松・鳴海絞り
    辻ヶ花
    「つじがはな」と読み、室町時代に開発された染色方法です。絞り染めの一種で、布地を複雑に縫い合わせることで複雑な絵柄を表現しました。友禅の出現によって、手間がかかり自由度が少ない辻ヶ花はたちまち廃れてしまいました。しかし、昭和になって久保田一竹により復興され、「一竹辻ヶ花」として知られています。

  • 丁髷
    ちょんまげ

    頭頂部をそって、後頭部の髪の毛を束ねて頭の上に乗せる、江戸時代の男性髪型一般をさすことが多いです。本来は、後頭部の髪の毛を束ねて頭に乗せるまげ(髷)の部分が小さい髪型を指し、老人の髪型でした。

    町人の成人男性は現在でも関取の方がしている大銀杏(おおいちょう)のように側頭部を大きく盛り上げる、銀杏髷の形をとることが多かったです。粋な旦那の髪型は本多髷であるなど、まげの中にも流行がありました。

    武士は同心などを除いて一般的に側頭部を盛り上げることはしませんが、大名家ごとにかなりまげの形は異なり、まげを見ただけでどこの大名の家臣かということが分かったそうです。

    ちょんまげいわゆるちょんまげ 舞台のかつらでは、月代が青いのは若い役で、老役の月代は地肌の色になります。

  • はかま
    和服におけるズボン的なもので、下半身につける物です。格式が高い物とされ、昔の武士でも袴をはくことは一種のステータスでした。基本的に男性がはく物ですが、女性でも巫女や弓道着などではくことがあります。
  • 羽二重
    はぶたえ/はぶたい
    衣裳としてのかつらをかぶる際、頭に巻く布のこと。かつら下ともいいます。羽二重とは絹織物の種類の一つで、上質なすべすべした平織りのものです。昔は一枚の布を巻いて使っていましたが、最近ではそのままかぶることができる既製品の羽二重もあります。 男性の場合は月代(さかやき)という頭をそっている部分があるので、その際の肌の色をした羽二重をもう一枚かぶります。

  • 股旅
    またたび

    侠客や博徒、芸人や芸者が各地を旅することです。股旅物とは、そういった侠客や博徒を主人公とした演目で、大衆演劇における人気ジャンルです。 江戸時代には統制が厳しく、勝手に地元を離れることは困難であり、また明治以降でも旅行には大きな費用と勇気が必要でした。そうしたしがらみから自由な股旅物が人々に受けたのはそういった面があるからかも知れません。

    衣裳としての股旅姿は三度笠に、しまの道中合羽、手首からひじまでを保護する手甲(てっこう)、脚には股引に脚絆(きゃはん、すねの部分に巻く川や布製のもの)、そして携帯用の武器としての長脇差といったいわゆる「股旅姿」は股旅物の定番です。

    股旅姿
  • メイク
    めいく
    いわゆる舞台メイクは、遠くの座席からでも見えるように派手な物が用いられます。歌舞伎の隈取りや、宝塚歌劇のゴージャズな目張りは有名です。 大衆演劇の役者さんの舞台化粧は、自分で行うのが原則です。このため大きな化粧道具を自分で持ち歩き、自分なりの方法を身につけてメイクをする必要があります。しかもショーと芝居の間に手早く行うのですから、それも手早く行えなければなりません。そんな座長さん達のメイクの様子はこちらでご覧下さい
  • 目張り
    めばり
    舞台メイクの一種で、目の回りにアイラインやアイシャドーを入れることで、目を大きく見せる技術のことです。

参考文献

  • 「芝居通信別冊 大衆演劇座長名鑑2003」オフィス・ネコ(2003年)
  • ぴあ伝統芸能入門シリーズ「大衆演劇お作法」ぴあ(2004年)
 
タイトル:
お名前:
連絡先メールアドレス:
連絡先電話番号:
- -
内容: